近年、地球温暖化の影響により日本列島の気候は年々厳しさを増しており、特に夏場の猛暑日は深刻な問題となっております。2025年もまた例外ではなく、気象庁の予報によれば、例年に比べて梅雨入りおよび梅雨明けがともに早く、夏本番の到来が例年よりも早期化することが予想されています。これに伴い、台風の発生頻度や猛烈な暑さが増加することが危惧されており、とりわけ屋外作業に従事する方々にとっては命に関わる課題と化しています。
建設業界においては、現場作業が屋外中心である上に、安全に対する多角的な配慮が求められます。その中でも、熱中症対策はもはや季節的な注意事項ではなく、「労働災害防止」「健康経営」「コンプライアンス遵守」といった観点からも、全社的・継続的な取り組みが必要不可欠となっています。
【気候変動と作業環境の変化】
地球規模で進行している気候変動は、日本にも大きな影響をもたらしています。とりわけ2020年代に入ってからの夏期は、全国各地で最高気温が連日35度を超える「猛暑日」が続く傾向にあり、都市部においてはヒートアイランド現象が加速度的に深刻化しています。
建設現場は、舗装された地面、鉄骨資材、コンクリートなど、熱を蓄積・反射しやすい構造物に囲まれることが多く、実際の体感温度は気象庁が発表する気温以上に高くなる場合があります。このような環境下では、どれだけ経験を積んだ作業員であっても、体調を崩すリスクは格段に高くなります。
また、作業に使用される重機や工具そのものが熱を帯びることによって、誤操作や接触による二次災害のリスクも増加します。そのため、熱中症は決して単独の健康問題にとどまらず、現場の安全管理全体に影響を及ぼす要素として、企業経営の根幹を担うものと捉えるべきです。
【熱中症のリスクとその構造】
熱中症のリスク要因は主に以下の3つに分類されます。
(1)環境的要因
- 高温
- 高湿度
- 強い日差し
- 無風・閉鎖空間(特に屋内作業所)
- アスファルトや金属による照り返し
(2)身体的要因
- 暑さへの慣れの不足
- 睡眠不足
- 栄養不良
- 持病(高血圧・糖尿病など)の影響
(3)行動的要因
- 水分・塩分の摂取不足
- 長時間の連続作業
- 適切な休憩の欠如
- 重装備・密閉性の高い作業着の着用
これらの要素が重なることで、身体からの熱放出が妨げられ、体温が異常に上昇してしまいます。最悪の場合、意識障害や臓器不全を伴う重篤な症状に至ることもあり、毎年多くの搬送事例や死亡災害が報告されています。
【法的背景と社会的責任】
2024年の労働安全衛生法施行令の改正を受け、2025年6月1日より熱中症対策の一部義務化が施行されました。これにより、一定以上の気温・湿度環境での屋外作業においては、使用者に以下のような対応が求められるようになりました。
- 熱中症対策の基本方針および計画書の作成
- WBGT値(暑さ指数)による作業環境モニタリング
- 作業前の体調申告と現場指揮者の健康確認体制
- 空調服・冷却素材の支給、塩分補給支援
- 労働衛生教育および熱中症予防研修の実施
企業は、これらを怠ることで、厚生労働省からの指導・是正措置の対象となるほか、労災認定時には企業責任の追及が厳格化されるケースもあります。
社会全体が「命を守る働き方」に大きく舵を切る中で、建設業界もまた、労働者の健康保持と安全意識の変革に向けた責任を果たしていく必要があります。
【弊社の熱中症対策の全体像】
弊社では、こうした社会的要請を先取りし、熱中症に対する対策と意識啓発を組織的に推進しています。以下は、その主要な取り組み項目です。
① 熱中症対策基本容量の整備
熱中症が発生しやすい季節に先んじて、安全衛生委員会が中心となって「熱中症対策基本要領」を策定。対象部署、実施タイミング、責任者の明確化、対応レベルに応じた管理方法が文書化されており、全従業員に周知されています。
② 作業環境への機材投入
- 空調服・冷感素材ポロシャツの配布:通気性・冷却機能に優れた作業着を全員に支給
- ドライフルーツ、塩飴、スポーツ飲料の常備:自然な栄養補給と塩分補給を推進
- 休憩用テントの設置:風通しの良い日陰を人工的に確保
- 製氷機の導入:内勤・外勤問わず誰でも使用可能な冷却支援策
③ 休憩制度と作業時間のマネジメント
気温が高まる時間帯(11時~15時)には、作業のインターバルを明確に設け、最低30分に1回の水分補給、1時間に1回のミニ休憩を義務化。作業進捗よりも安全を最優先とする文化が醸成されています。
【組織文化としての“災害ゼロ”宣言】
弊社は「熱中症災害ゼロ」を目標に掲げ、単なるルールではなく、一人ひとりの命と健康を守る文化の醸成に力を入れておられます。
職長や現場責任者が、定期的に現場パトロールを実施し、作業員一人ひとりに声をかけて体調確認を行うなど、「見て守る」から「聴いて守る」姿勢へと現場の安全管理が進化しています。
また、社内報や朝礼の場で、熱中症の注意喚起を行うことで、社員の意識に深く刻まれるよう工夫されています。